博報堂行動デザイン研究所

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COLUMN
#07:COLUMN
2014.08.26
ことばが生み出す「行動デザイン」
宗安 博之

「行動デザイン」と聞くと、イベントや体験装置による「直接的」なプロモーション施策を連想される方も多いかと思います。もちろん、すぐれた「行動デザイン」において、イベントや体験装置等は有力な手段なのですが、「行動デザイン」を創造するのは、必ずしもこれらのタイプの施策だけに留まりません。

そこで、今回はことばが生み出す「行動デザイン」というタイトルで、ひとつのことばが新たな行動様式を生み出し、広く生活習慣として定着していく事象に触れたいと思います。

「メタボ」ということばがあります。
日本では2005年に定められた概念であり、男性の場合は胸部90センチ、女性の場合は80センチ以上を「メタボ」であると制定したもの。(※他にも各種基準があります。現在の数値基準は05年のものとは異なります)
この「メタボ」ということばの誕生により、それまでは「(ちょっと最近太ってきたような気はするけど)自分はまだ肥満ではない!」と現状から目を背けてきた多くの中年男性がダイエットに走ったこと、周辺ビジネスが誕生したことなど、記憶に新しいかと思います。

「肥満」ではなく、「メタボ」。
「肥満」という強迫感/病気感に満ちたことばではなく、ちょっとチャーミング/普通体型以上肥満未満の「中間領域」をイメージさせる「メタボ」。それまでも、来るべき「肥満」に対する恐れから、ダイエットをする人はもちろんいたかと思いますが、「メタボ」ということばが生まれた瞬間に、一気に社会化し、多くの人を動かしたといえます。

これが、ことばによる「行動デザイン」の一例です。
すぐれたことばには、「知らせる」・「伝える」だけではなく、「動かす」ちからがあります。単なる広告コピーを超えた「社会記号」に近いもの、「社会現象」を生み出すもの。このような事象は昨今に始まったことではなく、往年のすぐれた広告キャンペーンの中にも「行動デザイン」要素を包含しているものがあり、例えばかつての「カエルコール」キャンペーンなども同様の強い行動喚起力を持った事例であるでしょう。

そして、ことばによる「行動デザイン」にはいくつかの利点があります。

持続力・定着力にすぐれる点。
多くのキャンペーンは期間が終了すると急速に忘却され、効果が減退していきますが、ことばは一度定着すると生活者の中でバイラルし定着していくので、高い持続性が見込めます。

巻き込み力・参加力にすぐれる点。
一度ことばになって定着すると「社会現象」として許容され、それまでニッチだった現象がメジャー化していきます。そうすることで、一気にその行為へのハードルが下がり「やってもいいかな。」という人が増加していきます。

コピーを、「動かす」ためのアイデアという観点で捉えなおしてみる。
商品/ブランドの強みを「伝える」だけでなく、「行動デザイン」のためのことばを開発するという複眼が今後の広告キャンペーンに必要かと強く考えます。

#06:社会課題を解決する行動デザインとは?(3)
2014.05.01
社会課題を解決する行動デザインとは?(第三回)

前回のコラムで「見立ての活用」という話をしました。募金行為そのものを真面目に考えても出口が見つからないときに、「募金」⇒「コインを投入する行動」というように読み替えると「ゲームセンターの遊具」という"見立て"のアイデアが生まれてくるのです。

もうひとつ、ちょっと前の海外の事例ですが「音のでるゴミ箱」というアイデアがありました。ゴミを路上ではなくゴミ箱に捨ててもらうのに「ゴミはゴミ箱に捨てましょう!」という標語はあまり機能しません。正しいことを叫ぶだけでは人は動いてくれないのです。ではどうしたらいいでしょうか?

そこであるチームが考えたのが、「ゴミ箱を、深い空井戸に見立てる」というアイデアです。ゴミ箱の中にセンサーとスピーカーを取り付け、ゴミを放り込むと長い長い落下音の末に、まるで深い空井戸の底に大きな石を投げ込んだときのような「ずっしーん」という反響音が返ってくるのです。これが口コミで広がり、街の人たちがそのゴミ箱にやってくるようになりました。

「やらなくてはならないこと」を「やってみたいこと」に転換させる。これが「行動デザイン」の基本的な発想法です。

#05:社会課題を解決する行動デザインとは?(2)
2014.04.15
社会課題を解決する行動デザインとは?(第二回)

優れたデザインには、人を瞬間的に動かす力があります。

最近、面白いと思った事例が「ジェットコースター型募金箱」というある企業のデザイン・アイデアです。チャリティ募金にどう参加してもらうか、というテーマはまさに「行動デザイン」の本領発揮が求められる、かなり難易度の高いお題です。今までは例えば、小銭が残るタッチポイント(レジの横とか、海外旅行の帰りの空港とか)に募金箱を置く、というどちらかというと「気持ちの隙を狙う」ようなややパッシブなアイデアが多かったように思いますが、この企業のアイデアが秀逸なのは、積極的にコインを入れてみたい!と思わせるエンターティンメントをデザインしているところです。

この募金箱の上にはジェットコースターの大型の模型のような木製のレールが組立てられています。先端にコインを入れると、途中でループしたりしながらコインがレールを滑走し、最後に募金箱に落ちていきます。「ポイント」のような分岐もあり、自分でレバーを動かし「海外向け」か「国内向け」か募金の「行き先」を変更することもできるようになっています。このように募金行動が楽しいゲームプレイに変換されているので、前を通った人が列に並んでコイン投入(募金)を楽しむようになります。ゲームセンターなどにある「コインを投入するモチベーション」を「募金」に見立てた上手いデザインだと思います。(続く)

#04:社会課題を解決する行動デザインとは?(1)
2014.04.09
社会課題を解決する行動デザインとは?(第一回)

昨今、国際的な広告祭で話題になった広告のかなりの作品が「広告が培ってきたコミュニケーション技術を、社会課題の解決に役立てる」という企画でした。

例えば、「駅や踏切での鉄道事故の危険を、シニカルなキャラクターの楽しい歌や踊りで啓発する」「自殺の名所となっている橋での自殺を思いとどまらせる」「子供がぐずって困っているお母さんを、すぐ子供が泣きやむ動画で助けてあげる」…といったものです。単に「啓発」「呼びかけ」に留まらず、リアルなアクションへの参加を誘発して結果的に課題解決につなげていくように工夫されているところが進化しています。

広告以外のデザインの分野でも「いかにソーシャルな課題を、デザインの力で解決できるか?」という取組みがいろんな領域で始まっています。

こうした動きを当研究所としてもウォッチし、「人を動かす行動デザイン」の知恵で社会課題を解決する、という事例を自分たちでも手掛けていきたいと考えています。

次回のコラムでは、具体的な事例を通じて、「社会課題を解決する行動デザイン」を考えていきたいと思います。(続く)

#03:行動デザイン基礎知識(3)
2013.07.23
「行動誘発装置」で体が動くと、人は動く!

人間に限らず動物の行動メカニズムは非常にエネルギー効率がよい、「省エネモード」のシステムです。外界の状況変化に対しいちいち脳をフル活動させて体に行動の指令を出していたのでは、脳が大量のエネルギーを消費してしまいますし、第一、反応時間がかかりすぎて外的などの危機から逃げ遅れてしまいます。そのため、人間の脳には、過去の経験を踏まえて、いちいち脳全体で「考える」ことなしに、体を反射的に動かすショートカット回路が形成されていると言われています。つまり、体を動かす経験とその時に感じる感情を束ねて記憶に積み重ねることで「怒りを感じる前に瞬間的に怒った動作をとったり、恐怖を感じる前にとっさに体をすくめ目をつぶったり」するようになるのです。

我々が考える「行動誘発装置」という概念は、簡単に言えばこのメカニズムの応用です。「行動誘発装置」を通して、ある体感的な経験とそのときの感情(わくわく感や優越感など)を束ねて蓄積させることで、効果的に企業やブランドにとっての望ましい行動を喚起させることができるようになります。例えば、よく冷えた形のいい空のビールグラスを手で握ると、きっとおいしいビールが飲めるという予感で期待値が高まり早くビールが飲みたくなります。直立不動で最敬礼をすることで、その相手を重要人物と敬う意識は強まります。

今まで単なるプロモーションの仕掛けと考えていた「景品」や「イベント」をもう一度「行動誘発装置」と捉え直してみることで、より効果的な行動デザインが可能になるはずです。

#02:行動デザイン基礎知識(2)
2013.07.23
「行動ビフォー/アフター」フレームとは?

前回のコラムでは、我々の提唱する「行動デザイン」と従来の広告的/販促的発想との違いを説明しましたが、この違いはなかなか、すぐに理解してもらうのが難しいようです。例えば、あるお店で若者の来店率を上げたいという課題があったとします。そのとき、「行動ビフォー/アフター」フレームで企画をスタートするわけですが、「今までお店に来なかった若者が、お店に来るようになる」という「ビフォー/アフター」は単なる課題の転載でしかなく、「企業やブランドにとっての理想のゴール」をまだ明快にイメージできていません。

重要なのは、なぜ若者がお店に来たいと思うようになるのか?を、「今まではお店に行っても、××な経験しかできないと諦めて、お店にいかないでいた」若者が、「来店行動を通じて○○な生活(例えばわくわくするキャンパスライフ)を送れるようになると期待して、来店する」、という「行動ビフォー/アフター」フレームでより明確に記載することによって、本当に若者が動く「行動デザイン」を設計できるようになるのです。
ここで誤解していただきたくないのは、「お店の魅力を広告的に伝えればそれだけで人が動く」と言っている訳ではないということです。来店行動により手に入る「わくわく」をより体験的に実感させる装置=「行動誘発装置」がないと、若者の重い腰は上がりません。次回はこの「行動誘発装置」についてもう少し解説をしていこうと思います。

#01:行動デザイン基礎知識(1)
2013.07.23
投票率を上げる行動デザイン!?

先日行われた参院選は、52.6%と事前予想どおりの低い投票率に終わりました。難しい課題ですが、若年層の投票率を上げるためにはどんな方法があるでしょうか?

例えばフラッシュモブ(広場など通行の多い場所で突然、仕込みの群衆が一斉に踊りだしたり歌いだしたりするゲリラ的なPRイベント)という手法を使って若者層に投票を呼びかける、あるいは飲食店とタイアップして、投票した人に商品を無料で提供する、などの手法を思いつく人もいると思います。

マーケティング的には、フラッシュモブは広告的手法(認知による意識変容を狙う)、飲食店タイアップは販促的手法(インセンティブによる行動動機付け)ということになります。しかしながら、いくら若者に興味を持たれる言い方で「投票に行こう」と訴えても、あるいは魅力的なプレゼントをぶら下げて投票行為を促しても、そもそも「何のために投票にいくのか? 投票に行くことが自分や身の周りの人にとってどんな意味があるのか?」の納得感がなければ人は動かない、というのが真実ではないかと思います。

我々の「行動デザイン」は、「投票をきっかけに生活が○○するように変わると期待し、投票するようになる」という、投票行動の先にある生活行動をゴールとしてビフォー/アフターをイメージするところから企画を構築します。これが、投票という行為そのものから出発して考案される従来の広告的/販促的発想との大きな違いになります。

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